哀愁の南十字星 / セバスチャン・ハーディー

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<第74回>
哀愁の南十字星 / セバスチャン・ハーディー
1975年作品

① Glories Shall Be Released
② Dawn of Our Sun ~夜明け~
③ Journey Through Our Dreams
④ Everything is Real
⑤ Rosanna
⑥ Openings 〜哀愁の南十字星〜

Produced by Richard Lush



 プログレッシブ・ロックなどのような、ちょっとマイナーなジャンルになると、「たった1枚のアルバムの存在だけで、その筋の人間達には有名」というアーティストや作品がある。所謂ポピュラー音楽界での「一発屋」の作品とは少し異なり、限られた時期だけの一過性の人気だった訳ではなく、たった1枚だけだが、その後20年30年経っても「名盤」と捉えられているアルバムがある。
 今回ご紹介するのも、そういう作品だ。 SEBASTIAN HARDIE (セバスチャン・ハーディー) の 「FOUR MOMENTS~哀愁の南十字星~」('75)。
 日本のプログレ・ファンの間では、現在に至るまで「必聴盤」とされているアルバムである。

 SEBASTIAN HARDIE はオーストラリアのグループだ。デビュー前は マイク・オールドフィールドLinkIconのカバーなども演っていたらしいが、'75年に本作でアルバム・デビューを飾り、翌'76年には 2nd「WINDCHASE~風の唄~」 を発表。しかしその後バンドは解散してしまい、リーダーだった マリオ・ミーロ(g,vo) はバンド解散後、自己のグループやソロ活動などを続けながらTV番組のサントラなども手掛け、オーストラリアでは結構有名な作曲家になっているらしい。
 が、少なくとも日本で マリオ・ミーロ(g,vo) といえば SEBASTIAN HARDIE であり、 SEBASTIAN HARDIE といえば本作 「FOUR MOMENTS~哀愁の南十字星~」('75) であろう。



 このアルバムは、曲目としては6曲となっているが、実際に聴いて貰えればお判り頂ける通り、①~④は組曲形式になっていて、事実上1曲だ。この①~④で、およそ20分半。残る⑤が6分、⑥が13分と、大作揃いのアルバムとなっている。ちなみにボーカルが入っているのは①~④のみで、⑤⑥はインスト曲。
 アルバムの幕開け ①「Glories Shall Be Released」 では、勿体ぶったアレンジもなく冒頭から、この組曲のメイン・テーマともいうべきメロディが登場する。のっけからメロトロン大爆発のイントロで、シンフォニック・ロックに目がないマニア諸氏にとっては悶絶モノだろう。
 実はこの①~④の組曲は、メロディ・パターンとしては3つ4つ程度のモチーフしかない。その3つ4つのメロディを、時にはギターで、時には鍵盤楽器で、時には唄メロとして重複使用し、時にはテンポを変えて繰り返すなど、とにかく手を変え品を変え20分に亘って耳にタコが出来るほど何度も同じメロディ・パターンを聴かせる。ほとんど詐欺のような組曲だ。
 しかしそれが詐欺どころか名曲とされている原因は、結局その何度も繰り返されるメロディ自体が、哀愁を帯びた良質なものであるからに他ならない。ブリティッシュ・プログレ的な美しく叙情的なメロディ・ラインだが、微妙に英国産のそれとは異なって悲壮感やもの悲しさはなく、雄大なオーストラリア大陸を彷彿とさせるスケールの大きなもの。ありふれていそうでなかなか聴いたことのない、それでいてどこか懐かしく感じる不思議なメロディだ。
 例えば大御所 YES の「Close to the Edge~危機~LinkIconのようなプログレ界を代表する大作などと比べるとさすがに聴き劣りするが、この①~④も充分な完成度を誇る組曲だといえるだろう。
 ⑤「Rosanna」 は、ゲイリー・ムーアLinkIconばりの マリオ・ミーロ(g,vo) の泣きのギターをフィーチャーしたインスト作品。相変わらず同じメロディ・パターンを繰り返す構成ではあるものの、やはりそのメロディ自体が極めて良質で印象的。個人的には、本作の中で最も聴き込んだ楽曲である。
 そしてラスト ⑥「Openings~哀愁の南十字星~」 は、泣きのギターに加え、キーボードも大活躍のインスト曲。これまた同じメロディを何度も何度も聴かせられることになるが、全編に亘って哀愁の漂う雰囲気は秀逸で、特別大きな山場もなく、およそ13分間を退屈せずに聴かせる構成力は見事だ。オーストラリア大陸の大自然の中へ沈みゆく夕日が目に浮かぶような、そんな曲。



 全6曲。先に述べたように事実上3曲だが、とにかくどれも印象的な楽曲で、現在に至るまでプログレ・ファンから絶賛を浴びているのも納得の完成度である。はっきり言って演奏技術の拙いメンバーも居るが、それを補って余りある良質な作品だ。実際、本国オーストラリアではチャートNo.1に輝くセールスも記録している。
 何よりも本作の最大の魅力は、その判りやすさにある。大作志向、インスト重視というプログレ的な作品でありながら、ビギナーが戸惑いを覚える「何が演りたいのかさっぱり判らない」パートや、「ほとんど聴こえない事実上無音」パートといった、無意味な高尚さがない。変に哲学的なところもない。
 カテゴリー分けすれば間違いなくプログレッシブ・ロックではあるが、この作品に難解な要素は皆無で、誰が聴いても理解できる判りやすさだ。
 多分 SEBASTIAN HARDIE の面々は、大上段に構えてプログレ作品を創作しようと意図して制作したのではないのだと思う。良質なメロディ、効果的なアレンジ、哀愁漂う作風など、どれも作為的な要素は感じられず、昔から暖めていたモチーフを練り上げていったら、結果的にプログレらしい作品になっちゃった的な趣だ。ある意味、奇跡的なアルバムである。
 とにかく聴きやすいプログレ作品なので、是非とも皆さんにも一聴をオススメする。シンフォニック・ロック入門編としては最適だ。当サイトをご覧の方々には、うってつけのアルバムだろう。


<2007.6.9>





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