【ロック名盤/名曲レビュー】ア・ヤング・パーソンズ・トゥ70年代80年代ROCK

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<第32回> MORE THAN A FEELING~宇宙の彼方へ~ / ボストン

1976年作品

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  ● 「BOSTON〜幻想飛行〜」
  ● 「GREATEST HITS」 (BEST盤)    に収録



 誰にでも「羨ましい」と思う人が一人や二人はいることと思う。
 私にもいる。その対象は身近な人であったりTVや書籍などでしか知らない人だったりと様々だが、私が常々最も羨ましいと考えている人間は、 BOSTON (ボストン) トム・ショルツ である。彼ほど恵まれた人間は、そういないのではないだろうか。


 BOSTON は一応バンド形態となっているが、実際には トム・ショルツ のワンマン・バンドで、彼が BOSTON そのものである。彼がアクションを起こさなければ、バンドは何も動かない。私が「羨ましい」のは、そんな トム・ショルツ のマイ・ペースな仕事ぶりであり、生活ぶりである。
 その名の通り、アメリカ北東部のマサチューセッツ州の州都ボストンから登場した BOSTON が、1stアルバム 「BOSTON~幻想飛行~」 でデビューを果たしたのは1976年のことだ。このアルバムは日本も含めて世界中で絶賛を浴び、1,000万枚を超える大ヒットとなった。そして続く 2nd「DON'T LOOK BACK~新惑星着陸~」 が発表されたのが、1978年。前作から2年後だ。このアルバムも全米No.1を記録する大ヒット。ここまではいい。
 ところが次の3rdアルバム 「THIRD STAGE」 がリリースされたのは1986年だった。前作から実に8年のインターバルがある。オリンピック2回分だ。別にバンドが解散していたわけではなく、また長期にわたって世界ツアーを繰り返していたわけでもない。確かにこの間に来日公演も果たしているが、その後は トム・ショルツ の自宅の地下にあるスタジオで、3rdアルバムに収録される11曲をこねくりまわしていただけである。そしてようやく発表されたその3rdアルバムもちゃっかり全米No.1を記録。ちなみにこの間に、彼はエピック・ソニーから契約不履行で訴えられている。そりゃそうだろう。
 この3rdが発売されたとき、巷では「次も8年後かなぁ」などという冗談が飛びかっていたが、次作4thアルバム 「WALK ON」 はホントに8年後の1994年に発表された。
 さらにその次の 5th「CORPORATE AMERICA」 も8年後の2002年にリリース。ここまでくると、もう確信犯だろう。このバンドは8年周期でアルバムを発表するグループなのである。

 BOSTON での トム・ショルツ の役割は、ギター、キーボード、作詞、作曲、アレンジからプロデュース、エンジニアリング、果てはアルバム・ジャケットのコンセプトまでと多岐に渡る。ときにはベースやドラムにも携わる。これは、アルバムの売り上げ等で発生する印税の多くが、彼の元へ流れるということでもある。
 バンド・メンバーが作曲やプロデュースを担当するのは何も珍しいことではないが、エンジニアまで務めるのはあまり例がない。それは専門的な知識や技術が必要とされるからだろう。ところが トム・ショルツ は、マサチューセッツ工科大学(MIT)を卒業したエンジニアリングのエキスパートなのである。しかも、エレキ・ギターなどの音色を変化させるエフェクターなども自分で作ってしまう。だから彼が作り出すサウンドは常に世界最高峰の音質を誇っていると同時に、世界でただひとつの特徴的な音色を持っている。(楽器店で市販されている「ロックマン」というブランドのエフェクター類は、彼の作ったものだ)
 実際、BOSTON の1stアルバムは、トム・ショルツ が独りで製作したデモ・テープを忠実にレコーディングしただけのものだったが、そもそもそのデモ・テープ自体が「現在可能な大抵のレコードよりも素晴らしいサウンド」という仕上がりだったらしい。
 自宅のスタジオで超一流の機材に囲まれて、8年の間にチマチマ曲をいじくって、たまにアルバムとして発表すれば大ヒットを記録して印税ガッポリ。そしてまた8年かけてチマチマ...。こんな羨ましすぎる人間は トム・ショルツ ぐらいのものだ。まあ5thアルバムはあまり売れなかったが。



 で、今回はとにかく BOSTON である。ご紹介する曲は、1stアルバム BOSTON~幻想飛行~」('76) に収録されたデビュー曲 「More Than a Feeling~宇宙の彼方へ。 全米チャート上位にランク・インされた、往年のロック・ファンには堪らない名曲であろう。これぞ洋楽。
 ブラッド・デルプ の美しい声とメロディ、コーラス、そしていかにも BOSTON らしいギター・リフを聴くことのできる作品で、すでにこの時点で BOSTON 特有の曲構成とサウンドが確立されており、この曲に封じ込められている。メロディ、サウンドともに簡単には全開されない、押し引きを微妙に使い分けた曲進行は絶品。 トム・ショルツ という人は、リスナーに対する駆け引きが誠に上手い。
 また後の作品ほどではないにせよ、世界でただひとつのギター・サウンドもすでに聴くことができる。
 トム・ショルツ の作り出すギターの音色は極めて魅力的だ。非常に甘美な響きを持っており、 歪んでいるけどクリアーひずんでいるけど爽やか という不思議な音色で BOSTON 以外では絶対に聴くことのできない独特のトーンである。特に後の作品では、なお一層オリジナリティに磨きがかかり、ギター・サウンドを何本もオーバー・ダビングして、「ギター・オーケストラ」とまで呼ばれる音空間を作り出している。興味のある方は 4thWALK ON('94) あたりを聴いてみて欲しい。
 正直に述べれば、この 「More Than a Feeling~宇宙の彼方へ」 が BOSTON の全作品の中でも屈指の名曲だとは思わない。トム・ショルツはその後の作品でこの曲を超える楽曲を続々と世に放っている。
 しかしこの曲こそ BOSTON の原点であり、すでにこのバンドのスタイルを構築しているという面でも興味深い作品だ。そして何よりも、「名曲」と呼べるだけの質は十分に備わっている。


 それにしても何とクオリティの高い音質だろうか。さすがに「現代のものと比べても遜色ない」とまではいかないが、とても70年代中期のサウンドとは思えない。
 しかし特筆すべきは、ただ単に音質が良いということだけではなく、そのサウンドが美しく叙情的なものである ということだ。 トム・ショルツ は、実はアナログ・サウンドにこだわったアーティストなのである。
 BOSTON の初期のアルバムには "No Synthesizer Used" "No Computes Used" とクレジットされている。また、デジタル全盛の時代に製作された 4thWALK ON('94) でさえも、アナログ・テープを使用して録音されている。
 だから BOSTON の「音」は心に響く。琴線に触れる。デジタル・シンセやサンプラーといった無機質なデジタル機器は極力排除し、手間ひまかけて音色を作りこんでオーバー・ダビングを繰り返す。その結果、仕上がった「音」は、無味乾燥とした硬いデジタル・サウンドではなく、アナログ特有の優しくて柔らかい音質になる。
 時代の最先端をいく世界トップクラスのエンジニアが、これほどアナログにこだわる姿はある意味感動的だが、彼がそうまでしてこだわる理由は、作品を聴いてもらえれば皆さんにも理解して頂けるのではないだろうか。 BOSTON で聴けるサウンドは唯一無二の個性的なものであると同時に、聴き手を優しく包み込むような暖かさに満ち溢れている。
 結局のところ トム・ショルツ は、知識だけの頭でっかちエンジニアではなく、人の心に感動を与えることを第一義とした優れた音楽家なのだろう。寡作だという点を除けば、非の打ち所のないアーティストである。



 その昔 BOSTON は、プログレッシブ・ロックとハード・ロックを混ぜ合わせたような曲想や雰囲気から、「プログレ・ハード」などと呼ばれていた。
 しかし何も堅苦しく構える必要はない。気楽にPOPSとして聴いてもらえればイイと思う。それで十分に感動できるだけの優れた楽曲を持つグループだ。
 とりあえず今回は 「More Than a Feeling~宇宙の彼方へ」 をご紹介したが、その後の作品も今後レビューしていきたいと考えている。何しろデビューから30年近く経つのに、発表されたアルバムは5枚だけ。それだけに彼らの作品は質の高いものばかりである。


 現時点での最新作 CORPORATE AMERICA がリリースされたのは2002年だった。次回「宇宙船ボストン号」が地球に帰還するのは、2010年の予定である。ホント羨ましい。


<2005.11.10>



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